あの時、俺は世界に拒絶された。

その時、俺はようやく絶望した。

今までに無く感じる痛覚。

いとも簡単に崩れ落ちたプライド。

無様なほど、恐怖で怯えた叫びが零れた。



血が溢れる。身体が、赤く染まる。

あの日からずっと、ずっと。世界の先頭に立っている。そう思っていた。

たいした思い上がりだった。俺は今、世界で一番下等な生物に成り下がっている。

壮大な夢と、希望と、名声に満ち溢れた世界に浸っていた俺は、無様に這い蹲っている。



王。

その言葉は希望であり、理想であり、永遠の時間であり、皆が求めていた刹那の願いであり、そして呪いの一言だった。

たった一言。それが、俺の全存在を構成するものだったのだ。

ずっとその為に空を仰いでいた。果てない夢を、見ていた。

今まで未来は簡単にこの両手に存在していたのだ。

俺という存在は、ひどく稀有だと思っていた。思い込んでもいた。



滑稽だ。あぁ、なんて、滑稽だ。

王になるどころか、この無様な存在は、一体何だ。

壮大な夢も、希望も、名声も、皆の願いも、俺の願いも、すべて終わりだ。

こんなに簡単に崩れてしまうものだったのだ。



けれど、そんな俺になんの価値があるというのだ!



俺は、王になる。

王にならなければならないのだ。

その為なら、この身体なんて滅びても構いやしない!

王ではない俺以外に、存在する意味などないのだから!!

(違うだろ?とどこからか声が聞こえた気がした。…愚かだ!)

(俺はまだどこかで自分の存在を正当化しようとしている)

(王になれなくても―――そうやって、自分の存在価値を見つけようとしている)



最後の手段に己の封印を解放しても、世界は変わらなかった。

いとも簡単に墜落した。

消える。確信した。



絶望した。

全ての終わりを、認識した。

世界に拒否されてしまったのだと、自覚された瞬間、闇に包まれた。

絶望した。

涙したかもしれない。

なんの涙か、意味さえもわからないまま。



リオウ。

そう、俺を呼ぶ声が、確かに聴こえた。

頭の中に直接響く声は、ひたすらに脳内を響かせた。

振り返る。



お前が俺同様、絶望した顔で―――泣きそうな顔で、見ていた。

俺に手を伸ばそうとして、何度も空を切る。

何回も、何回も、俺を呼んでいた。



絶望の中に、ただただその声だけが木霊した。



お前がそうやって最後に俺を呼ぶから。

そうやって俺に手を伸ばすから、錯覚するのだ。

俺は、このまま存在してもいいのだと、思い上がるのだ。

もう、俺にはなんの価値もないというのに。失ってしまったというのに。



バニキス。



最後に一度だけ。お前を、呼んだ。

届いたのかも知れないが、きっと、届かないほど微弱な力だっただろう。



けれど最後に、何故かお前を呼びたくなったのだ。



俺の存在は、世界に拒否されて終わりを告げる。

俺は、諦めて瞳を閉じる。



そうして、深い絶望の闇へと、俺は俺自身に終わりを告げた。





23巻の終わりにての妄想。
アニメにしろ、原作にしろ、リオウの送還は切ないのです。
悲願が達成できないというのは悪役のセオリーなのですが、どうにも切なくてたまりません。