「見てみろよ、チータ」
ふと、何時ものように空を見上げたロデュウは何かに気付いたのか、静寂と漆黒に塗り潰された空を見上げて、長い指を上に指した。
チータがつられて視線を上げるとそこには、冬の空に相応しい冷え冷えとした闇と、相対的に輝く光があたり一杯に散らばっていた。
「あぁ。星がいっぱいね」
チータは、マフラーの中に収めた顔を少しだけ覗かせて、寒い夜風に瞳を細めながら、ロデュウと同じ角度に首を傾ける。
ロデュウは適度な岩場を見つけると、チータを抱えあげて、彼にしては比較的おとなしい仕種で降り立った。
チータはせめて風から逃れるように岩場の影に座り込む。ロデュウはまるで平気なのか、立ったままで燦然と輝く空を見つめた。
けれど、やはり完全に平気、というわけでもなかったらしく、さらされる夜風はロデュウの頑丈な体にも肌寒いと訴えた。
気になってちら、と隣に座ったチータを見る。
やはり、ただの人間であるチータの指先は、寒さのあまり朱を帯びていた。
手をこすり合わせる仕草を見てロデュウは、風向きの方角に立ってまた空を仰ぐ。
彼なりの不器用な、非常に分かりづらい気遣いである。
「見ろよ」
空をかざしたロデュウの手は何もかも掴み取れそうなほど大きく見えた。
その口元には楽しそうな笑みが、微かに浮かんでいる。
楽しそうだわ。チータは淡々とロデュウの顔を下から覗き込んで、地上を照らす光に目を向けた。
いつだっただろうか。星は自ら光り輝くものだと教えてもらったのは。
名前すら無いこの星たちは、自ら光を放ちながら、消えるその瞬間こそ盛大に、偉大に命を絶つのだ。
この大地からみるとそれはそれは美しい輝きとなっていつの間にか消え去ってゆくのだ。
空に満遍なくといって良いほど散りばめられた星は、暗闇の中、己を食われることも無くいっそう綺麗に光をまとい続けている。
チータは、思考をめぐらせる。
あぁ。きっと空に広がるあれは、自分から輝けるからこそ、あんなにも美しいのね。
誰も邪魔できない優しい力強さがあるから、あんなにも美しいのね。
羨ましい。
チータはすっかり冷えてしまった指先を自分の息で暖めて、ゆったりとした仕種で、手を伸ばす。
掴むように握った拳は、もちろん空を切るばかり。
けれど。
「―――――チータ?」
ロデュウは、ふ、と隣から零れ落ちた吐息の音を拾った。
不思議に思って、座り込んでいるチータの顔を覗き込む。
彼女は、微笑っていた。
「………チータ?」
「…綺麗だわ」
そういうと、それっきりチータの表情はいつも通りの感情のない姿に戻ってしまう。
けれどロデュウは、星とチータの顔をしばらく相互に眺めて、やがて面白そうに笑った。
先ほどよりも、ずっとずっと楽しそうに。
「おぉ、そんな顔もできるんじゃねえか」
そういうと、嬉しそうにロデュウはチータの隣に腰を下ろした。チータは、ふ、ともう一度だけ、微かに楽しそうな吐息を漏らす。
(だって、星が本当に綺麗で、今までに見たことがないぐらい美しかったんだもの。)
(あと、貴方があまりにも楽しそうだったからよ。)
小さな星明りの下。2人きりの天体観測はまだ続く。
ふと思うけどロデュウ様とチータちゃんってNOT恋愛関係でも全然美味しいなぁと思います。
ロデュウ様はチータちゃんに前向いてもらって欲しかったんでしょうね。原作はもはやアレです。
美味しすぎですよね。