「ねえ、どうしてこんなに世界は私達に不公平なのかしら」
昇ってきた朝日を全身に受け、ルンは今にも消えてしまいそうなほど小さな声で呟いた。
水平線から海へと黄金色を広げてゆく朝日は、輝かしく美しい。
あまりにも眩しく、目を開けていられないほどの世界の美しさに、ルンとアドラーは辟易して瞳を薄めた。ついでにうんざりとした溜息もお互いの口から同時に零れ落ちる。
朝の冷たい空気に思わずルンの喉元が震える。それはまるで畏怖に慄いている様な光景にも見える。
「どうしてこんなに、世界は美しいのかしら」
昇る朝日も、落ちる夕日も、優しい空の青も、空を吸い込んだ真っ青な海も。
全て美しくて、溜息が出そうなほど愛おしくてたまらないと、人間が思うこの世界が、ルンもアドラーも大嫌いだった。
否、そんな言葉ではきっと足りない。
憎悪と嫌悪、それに酷似した感情を心に押し込めながら二人はこの世界を生きてきたのだ。
皆が当たり前に溶け込むこの世界の中で、いつだって二人は歪を感じていた。
「…こんな美しい世界で、生きていけるはずもないのに」
憎憎しげに呟くと、小さな手を伸ばして、ルンは視界から朝日を消す。少しでも目に入れていると、その瞬間自分が焼け焦げてしまいそうで恐ろしかったからだ。
宙ぶらりになっているもう片方の手で、自分の身体を精一杯抱きしめた。
また一日を告げ始めた美しいこの世界が憎くて、けれども恐ろしく、ふと今にも泣き出したい衝動に駆られたのだ。
これを大自然の畏怖だというならば、なんと酷く憎いものなのだろうと、ルンは唇をかみ締める。
「ねえ、どうしてだと思う?」
不安で震える声で問いかけると、冷たい氷を宿した瞳が、小さな少女を見下ろす。
アドラーは、
「当然だ」
と確固とした声で言い放つと、ルンが目を背けた朝日をまっすぐにらみつけた。
もう全てを拒否しきってしまったアドラーは未だ揺らぎを浮かべるルンよりも決然と言い切った。
「この世界は、僕達にふさわしくないのだから、当たり前だろう?」
まるで今から協会で聖歌を歌うのじゃないかと思うほど清らかな声で、アドラーは残酷に世界を見下ろす。





「だから、壊すんだ」





朝日が昇る。一日が始まる。美しい世界が幕を開ける。
その幕を途中で引きおろすために、二人は手によく馴染んだ本を勢い良く開いた。










アニメ版アドラー+ルンの話。
実はファウード組からは石版編と違ってコミックスを読んでからアニメを見ていたんですが、なんというかこの二人が一番吃驚したような記憶があります。
でもこっちの設定でも個人的には非常においしい要素がたくさんなので嬉しいのですが。
とりあえずアニメ版のファウード組の声はどの子もいいなぁと思います!にっこにこ