ごめんなさい。







それは、私が小さな彼女の戦いを共に戦うと決心して、戦いを終えて、はじめて彼女の口から聞いた言葉だった。
白いシーツ。パイプ式のベッド。乳白色の床。吐息すらも見えてしまいそうなほど白い壁、そして同じ色の天井。白が一杯に囲まれた室内で、不自然な程さわやかさをかもし出そうとする、空と同じ色をしたカーテン。そして日光を反射して眩しく光る銀色のサッシ。
それらをぐるりと、何も考えずにゆっくりと見渡して、私は、ようやく私の手を震える指先でそっと触れている彼女の小さな、とても小さな手を見下ろした。そして、一緒に見えたのは、私の腕に巻かれた、部屋と同じ真っ白な包帯。
彼女は、太陽に透けるととても綺麗な(と、私は勝手に、でもとってもそう思っている)優しい薔薇色の髪がばさりと顔にかかってしまうぐらいに深くうなだれて、包帯が巻かれた方の私の手を見下ろしている。だから、表情は解らない。それでも、短くて、関節すらまだよく出てきていない、その幼い手が微かに震えているのに気付いてしまった。
「ごめん、ね」
彼女がそう謝ると同時に、不意に私の包帯が赤く滲んだ。出血が包帯に染み込んでしまったのだ。私はあわてて腕を引っ込めて、その姿を彼女に見せまいとした。けれど、遅かった。
つぅ、と。相変わらず彼女はうなだれているから、見えてもいないのに、彼女の悲しさと辛さがそのまま流れ落ちた音がはっきりと聞こえた。そして、行き場をなくしてしまった彼女の手の甲にぼたぼたと大粒の雫になって落ちてくる。
彼女は、肩を上下に震動させて、喉を震わせて、揺れる吐息を零して、泣いた。断続的に鳴る喉を押さえて、何度も、何度も謝りながら。
何て悲しい子なのだろうと、私は、思った。きっと笑顔がとても似合う子なのだろうに。こんな風に、ずっと沈んで、不意に泣き出す子ではないでしょうに。
自分のために誰かを傷つけることが、自分が傷つくよりも私が傷ついたことを気にしてばかりいる彼女が、悲しくて優しくてしょうがない子だと、思わずにいられなかった。







ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。







(謝らないで。私は、貴方と一緒に戦いたいと思ったのだから)
(貴方の力に鳴りたいと、私が願ったのだから)
(だから、謝らないで)
(一緒に戦えばいいじゃない)
(一人で戦わないで)
(ねえ、私たちは、仲間でしょう?)
心の中に途端に吹き荒れた想いは、でも、言葉にすると今、彼女を傷つけてしまう凶器にしかなってくれなさそうだった。触れるだけで、ほんの少し触れるだけでも途端に破裂しそうなほど赤く腫れた心は、どうすれば癒してあげられるのだろう。
今一体、私に、何が出来るというのだろう。







(ねえ、ティオ)







解らなくて、悲しくなって、私は思い切り彼女を抱きしめた。思い切り、願いと彼女への悲しさと、愛しさを込めて。彼女の嗚咽が激しくなってしまった。益々悲しみの色は濃くなって、私の涙腺にまで届く。私は、自分の年齢も周りの目の恥ずかしさも、自分の立場も考えずに、きっとひどい表情で泣いた。
乳白色の床に置かれた、パイプベッドの白いシーツの上、吐息すらも見えてしまいそうな白い部屋に囲まれて、私たちは抱きしめあって悲しみを思い切り吐き出していた。







(悲しい、優しい貴方が大好きよ、愛しているわ)
(だから、怖がらないで、怯えないで、私は貴方の味方だから)







思い切りこの腕で泣いてしまいなさい。この中で悲しみや苦しみが薄れるぐらいに涙で流してしまいなさい。







そんな想いを込めて、握り締めた彼女の指先は震えていて冷たくなってしまっていて、私はいつか彼女の中が暖かい、優しいもので満たされますようにと願って、いっそう泣いた。












前日記の短文再アップ。
朱色の二人は、すごく優しいなぁ、と思います。
ティオなんか、本当に術に表れているもんなぁ。
それで、最初のティオは本当に切なかった。それを読み返したときに思い出して、ふと。
きっとガッシュに出会うまでは恵が怪我するたびに傷ついてたりしたのかな、とか…。
それにしても夏樹が書く皆は本当に可哀想ですね。もうそろそろ幸せにしてあげたいな。
みんなのじゃれ合いでも書きたいな。しかしこういう妄想が浮かんでしまう根暗な性分。ううぬ。