昨日、お前が夢に出てきた。
俺の隣で気高く前を向いていたあの時と同じくまっすぐ背を伸ばして、視線をあげ、自信に満ち溢れた勝者だけが浮かべる笑みを相変わらず浮かべながら、お前が俺を見た。
少しもあの日と変わっていななかった。
美しく存在を主張する黄金も、いっそ純粋と言えるほど上を見続けるその瞳も。


けれど知っていた。
そのお前は、偽物だということを。
もうお前のプライドも、名声も、地位も何もかも打ち砕かれている。
お前の世界は、お前が一番望まなかった形で無理矢理終結させられた。
だから―――もう一度お前がそんな風に笑う事なんてできるはずがないんだ。
これは、俺の、下らないただの妄想だ。
俺は自分の哀れな妄想を見つめる。不意に強い吐き気がこみ上げてきた。苛立ちかも知れなかったし、やり場の無い怒りというものにもよく似ていた。
笑顔で愛しいお前の偽者の髪を思い切り掴むと、右足を強く振り上げて、その顔を思い切り蹴り上げた。
戸惑いもせず、躊躇すらなく、思い切り胸倉をつかんで放り投げる。(夢だからかもしれないが、それはとても簡単だった)
(ただ、夢だとわかっていても、お前と全く同じ姿のモノを投げ捨てるのになんの躊躇もない自分が我ながら酷いと思って笑えたのは言うまでもない)
血に塗れた瞳で、驚いたようにお前が俺を見る。
俺は、愛しいお前の姿を宿した偽物に、最高の笑顔と唾を吐きかけてやった。もう下らない妄想の表情には目を向けない。
背後にぽっかりと空いていた深い暗闇へと、偽者を蹴り投げた。
そうして夢は終わる。


目が覚めた。
雨の音が耳にへばりついて五月蝿い。前までは、雨が降ろうと嵐が来ようとこの世界が滅びようと、そんなもの自分の中ではほんの少しの価値も無かったし、意識下に置く時間すら無かったくせに。
突然、もう一度一人きりにされると余計な事ばかり考えるようになってしまった。
一度誰かの隣に存在を見出してしまったから。だから、こんなにも一人きりの世界を保つのが難しくなってしまった。
他人に支配されるというのは、こんな感覚だったのだ。誰かを取り込むというのは、こんなにも重かったのだ。
あぁ全く―――俺みたいな人間には、少しも手に負えない感情を持っちまった。
思わずこぼれた笑みを空気中に放り投げて、窓辺に立つと、雨に濡れて重くなった空気を思い切り吸い込む。


「リオウ―――――――――」


お前の偽者なんて要らない。
どれほどそれがお前と同じだったからって、見た目が変らなくたって、中に詰まった脳みその全て100%をお前と同じに作り上げていたって、お前じゃなければそんな存在何の意味もない。
価値も無い。


垂れ下がっている右腕に、視線を降ろす。
もう、お前と俺を繋いでいた魔本は、無い。
右手に馴染んでいた重さは、少しも感じられない。
それはお前と俺の世界の隔たりの証。
決別の証拠。


笑えるな。なぁ。


「――――リオウ」


もちろん返事はない。
わかっていたくせにどうしても焦がれる、この感情を抑え切れなくて、思わずそれに賭けてしまった自分が無性に可笑しくて、俺は腹を抱えて笑い出した。
(ずっと、ずっと、傍にいるのだと確信していたのだ。なのに、あっさりと崩されてしまった。
もう決して手の届かないところに行ってしまったからこそ、まだその欠片を探そうと、掴もうとしている自分が滑稽で仕方ない!)
(ああ)
(全く、 可笑しくて仕方ない!!)







(それでも王様の復帰を望まずにいられない私は愚かな生物です)







ある日の夢でバニキスが思い切りリオウを蹴り上げる夢を見たのです(苦笑)
サドの人は打たれ弱いっていうけど、バニキスはサドなんだろうか。一部マゾっぽいなぁとも思うのですが。
えっと…じゃあサド6割、マゾ4割で!(笑)