なぁリオウ。お前は今もこんなにも必死に自分の存在価値ってモンを求めてる。
お前が愛する一族のために。お前が愛する一族から愛してもらうために。
たったそれだけ。
そのためだけに命を削ってまで呪いの苦痛に耐えながら、まるで縋るようにこの力を求め続けているんだろう?
お前は自分のそのあり方に疑問など浮かばないだろう。そのやり方にに不満など、俺には一切無い。言えない。
でも。




「おい、リオウ・・・いいかげんに・・・」
「・・・に・・」
「・・・?」
「俺は…王になるんだ・・・必ず、王に・・・」




そうだお前は王になる。だってお前は強いそして気高い。きっとその黄金の元に誰もが縋りつくだろう。だってお前にはその力がある。
お前は王にならなければいけない存在だ。
けれどリオウ。違うだろ?・・・その力は、お前が求めているものとは、違うだろう。
・・・この馬鹿でけえ、気持ち悪い力はきっとお前の望むものは与えてくれねえよ。
だって、お前の中の願いにコイツは大きすぎるだろうが。
なぁ、お前が望む力はお前の望みじゃないんだ。早く気付けよリオウ。全てが壊れてしまう前に気付いてくれお願いだ。
本当のお前の望みはこんな巨大で邪悪な力じゃない、もっともっと小さな、けれど大切なモンだろう。
俺はそんなモン、とっくに諦めたし自分から神様ってヤツに叩きつけて壊しちまったがお前だけにはそんなこと、して欲しくない。お前の手にそれをつかませてやりたい。なぁリオウだから早く気付いてくれ。




お前の。
お前の望みは。




「――――リオウ――――」
空虚に広がる海面を眺めて、小さく呟く。あんなにも近かった距離で聞こえていたはずのお前の声は、返ってこない。
くるはずがない。俺の隣には、もう誰もいない。お前の姿はどこにもない。
「リオウ」
終わっちまったな。
魔本が消えて軽くなった右手を翳すとなんだかどうでもよくなってしまって、俺はそのまま青々しい芝生に寝転んだ。


結局お前にはなんにも与えられないまま、俺はお前の望みもかなえてやれなかった。なんてこった。
まだ子供だったお前はその小さな手のひらに溢れるほどの巨大な力を抱えていたというのに俺はお前の手すら握れず、よくなじんでいたお前の小さな魔本すら守れなかった。
お前の本当の望みを俺はお前より早く気付いていたというのに。
「なぁ、リオウ・・・・」
お前が本当に望んでいたのは「リオウ」というたったひとつのお前自身を認めてくれるものだったのだろう?
人であれ、場所であれ、ものであれ、お前はきっと心の底でずっとそれを望んでいたのだろう?
王になろうとしていたのも一族に自分の存在をもっと認められたかったのだろう?
気付いていたさ。
それでも何もしなかった。




なんてこった!




俺がお前の存在を認めてやればよかった。
自分自身がどうしようもなく下劣で最低な人間なのは承知している。
けれどそれでもお前の存在を認めてやるくらいはできたはずなのに。
お前を一度でも抱きしめてやることもその手を握ってやる事もいくらでもできたはずなのに!!
―――臆病で、卑怯者の俺は、結局最後の最後でお前を受け入れることを微かに拒否しようとしていたんだ。
何よりも自分が愛しいのさと、自分もお前も騙して、お前の傷を見てみぬふりをした。
だから、お前の望みを誰よりも一番知っていたのに、何もしなかった!
誰よりも、一族よりもお前を愛している自信があったのに、それでもお前を救えなかった、救わなかった!!




どうしようもない。馬鹿だ俺は。
本当、笑える。
「…ごめんなぁ、リオウ」
なぁ、リオウ。もう一度だけ…あと一瞬でもお前に会えるなら、お前を愛して、愛して、愛してやりたい。
今度こそお前の手をとって抱きしめてやりたいよ。




そんな願いを神様に縋るように俺は自分自身の非力な手のひらを空にかざした。






愛することを怯える彼は、愛されることを知らなかったのだ。
そして、彼は、愛することを見下していたから、恐怖した。







アニメにしても原作にしてもリオウの望んでいるものって、王みたいだったけど、それって結構一族の思いをかなえるために、って要素は強いよなぁと思います。
個人的にリオウって言うのはものすごく一族から王への地位を固執されてて、結構リオウ自身の価値をないがしろにされてそうと思うわけで。
そんなイメージで書いたら予想以上に儚い文にできあがっちゃったわけです(笑)