「・・・・・・・・・・・・おい、玄宗」







ひどく退屈で、晴れやかな快晴ってやつの午後。
俺の下に組み敷いたツァオロンから、あきれ果てたような声音が届く。
暗に、掴んだ手首を離せと言っているのだろうが、その意図を解って尚、俺はあっさりとそれを無視してやった。
先ほどまで俺達は組み手をしていたはずだったが、余りにも暇を持て余していたので、からかい混じりにツァオロンの腕をとって己の下に組み敷いてみたのだが、そういう類の行動を好まないこの魔物は、案の定、眉のない顔をしかめて鋭い声で俺を睨みつけてくる。
けれど、そんな態度もこの魔物と出逢ってから経った一ヶ月でとうに慣れてしまった俺は、そんな視線を歯牙にもかけず――――むしろ、楽しそうに笑って返してやった。
するとツァオロンはさすがに怒りをあおられたのか、俺が掴んでいる手をほどこうと力をこめる。
だが、そんな力で俺が振りほどけるはずもねえ。
俺は益々愉快になって、浮かれた機嫌をそのまま声に出して笑う。
「玄宗・・・・・・・・・っ」
すると、さすがに怒りが理性を増したらしく、怒りを滲ませた声音で、束縛していない右足を振り上げる。
その一撃は、俺の腹に収まったが、さして本気でもないのだろう。なんてことはなかった。
ツァオロンは本気でやればよかった、とでも言うように小さく舌打ちをする。
最近、この魔物が怒ることが多くなったような気がするが、そういったら誰のせいだと、また違う観点で怒り出しそうだったので黙っておいた。
それに、コイツは怒ってるときのほうが面白ぇしな。







俺は、ツァオロンが、予想したとおりに怒りを滲ませる姿に満足して、その細っこい首筋に歯を立てる。
未だ快感に不慣れなツァオロンは、湧き上がるものを抑えきれぬように、小さく身を震わせた。
「っ」
それでも声を上げないところを見ると、多少は堪えているらしい。その頑なな態度を崩すのも、楽しみになっていることを知らずに。
俺はそのまま、細いがしっかりと筋肉のついた腹をなであげた。
ツァオロンは、かすかに顔を快感の色にゆがめたが、流されるわけにはいかないのか、不満そうな瞳で俺を見上げる。
「こんなところでなんだっ・・・離せっ」
コイツ、こういう雰囲気になると一回は拒否するけど、離せとか言われて大人しく離すわけねぇだろ。
おそらく、それを承知で足掻いている子供の抵抗がおかしくてそのまま手を小さな体躯に這わせる。
「おいっ、玄宗っ!」
大人しく離さない俺に怒りを滲ませて、ツァオロンは俺の体を押しのけようともがいたが、俺はそのちっちぇ抵抗ごとねじ伏せようとツァオロンの顎をつかんで、くい、と上向かせると、その唇を自身のそれに重ねた。
「・・・・・・っ・・・・・・」
重なり合った口内を自由気侭に蹂躙して、熱を帯びた舌を甘噛みして、散々好き勝手にしてやる。
たっぷり時間をおいてようやく唇を解放すると、ツァオロンは自由になった口で荒い呼吸を数回繰り返し、かすかに熱に浮かれた瞳を逸らした。
「大人しくなったじゃねえか」
満足げにそう言ってやると、ツァオロンはやれやれ、という風にあきれた――それでいて、含みをもった――ため息をもらした。
「全く・・・そうやってお前は強引に俺をねじ伏せてばかりだな」
まぁ、否定はしない。
(けれど結局、最後にはツァオロンも抵抗を止めて大人しくしているのだ。
 それを見越して毎回毎回、こりもせずこうやって俺がちょっかいをかけることは、気付いていないはずが無いのだが)
「・・・わざわざ俺など相手をしなくても、町に行けば適当な相手は見つかるだろう」
それに関しても否定はしない。実際(自分で言うのも馬鹿みてえだが)相手に困る程酷い顔でも無えし、町に下りて、そこらへんの女をひっかけることも容易だ。
―――――だが。
「嫉妬か?」
必死に隠しとおしたつもりでも、かすかに見え隠れしている本音を突いてやると、あからさまにツァオロンはその表情を朱に染める。何だかんだ言って子供に過ぎないこの魔物は、まだ完璧にその感情を隠しとおす事は無理だ。ちょっとばかしつついてやると、面白いほど本音がわかる。
ツァオロンはいじけた感情を知られた事に、ひどく眉根を寄せて、熱が収まりきらない顔を背ける。
俺は、その反応を存分に楽しんで、さらにこの魔物の子が堪えられなくなるような台詞を言ってやる事にした。
「――――生憎だが、今のところ、俺はコレで充分だからな」
そういうと、もう一度ツァオロンのそれに唇を重ねる。
後の反応はさっき存分に楽しんだので、今度は先ほどよりも軽いものでおさめてやった。
まぁ、たまにはこうやって言ってやるぐらいはいいだろうしな。
唇を離してやると、ツァオロンはしばらく目を見開いて、言葉もなく俺を見返してたが―――やがて、ぷいと顔を背けて小さな声で呟く。







「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なら、いい」
長い沈黙の末、やっと吐きだしたその言葉は、こみ上げてくる喜びを必死に抑えてます、みたいな口調で、思わず俺は腹を抱えて笑っちまった。
こんなさりげない言葉で嬉しくなってしまうなら、もっとスゴイことを言ってやったら死ぬんじゃねえのか、なんてありえない事を半ば本気で笑いながら思ったりして。







ああ、本当にコイツって。







「何だっ・・・!」
羞恥を紛らわすようにツァオロンは、頭上にいる俺を睨みつける。
けれど、俺は全く気にする風もなく、心底おかしそうに笑いころげてやった。





本当にコイツって、馬鹿みたいに可愛いよな。








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移転用に多少書き直していてあらゆる羞恥等の感情がこみ上げて色々出そうになりました。
今も出そうです。超恥ずかしいです何書いてるんだか!!(赤)
でも自分の書く玄ツァオはどうしてもこんな馬鹿馬鹿しい頭の螺子が吹っ飛んだ話になってしまうのでここの玄ツァオを見た方は読み終わった後必ず食傷気味になっているはずです。
…あー…恥ずかしい!!!玄ツァオってどこまで吹っ飛んでいいんでしょう。解らないから恥ずかしい!!