月の光を浴びている室内は意外と明るい。
少なくとも、目を凝らさなくたって隣で寝ている玄宗の顔がはっきりと見えるぐらいには。
やや大げさな寝息をたてて眠る玄宗をツァオロンは呆れ顔で見る。いくら深夜とはいえ、よくもここまで無防備に寝れたものだ、と毎日ながらに思う。起きている時はどんなにふざけていたって、一寸の隙も見当たらないこの男は、出逢った当初の頃は寝ている時さえ今みたいな姿をさらさなかった。
けれど、出会ってからどれぐらいが過ぎた頃だったろうか。
こんな風に、眠るときに警戒を解くようになったのは。
何を考えているのだろう、と今でもツァオロンは思って仕方が無い。
こうやって、安らかに眠っているその時を見計らって俺がお前を狙わないだろうか、などは考えないのだろうか。
隙をみせているということは、ツァオロンはそれをしないだろうと、玄宗がそう思っていると言う事だろうが。
それは、信頼と言えばいいのだろうか。
ふと、ツァオロンは思考をめぐらせる。
俺を信頼しているから、そうやって無防備な姿をお前は平気でさらして眠っているのだろうか。
考えて――――――違う、とあっさりと、即答にも近い答えがツァオロンの中から返ってきた。
この男が信頼など生温い感情を持つものか。玄宗の事がほとんど理解できなくたって、それは解った。
きっとこの男は信頼じゃなく、俺にはお前を殺せない事が解っているんだろう。
なぁ、玄宗。
玄宗を覗き込むようにして、ツァオロンは顔を近づける。相変わらず爆睡し続けているこの男に起きる気配は無い。







玄宗は酷く傲慢だ。
いつだって、強さばかり追いかけているこの男は、つまるところ、自分が楽しければいいのだ。
その生き方はひどく粗野的で――――ある意味、ひどく真理をついた生き方だと、不覚にもツァオロンは思う事がある。
本当に自分のやりたいようにしか生きていない姿はひどく反感をあおるし、何かあるごとに他人を苛立たせて仕方ない。
血迷ってもそんな玄宗の生き方に憧れや羨望などは抱きたくない。少なくとも、己は。
けれどその姿は、何故か目をひきつけてしまう。
心の底から浮かべる愉快そうなお前の笑みを見るたびに、疼きにも似た熱さが生まれる。
そう。それは最初から玄宗という男がそういう生き物だったからだ。
お前が、ただただ強さを求め続けるからこそ。其れ以外の生き方を、あっさりと捨ててしまうような人間だからこそ。
だから初めてあの時戦うお前を見たとき、その姿に、その背中に、千年間なくしていた闘争心が蘇えったのだ。







だから、ツァオロンはこの男を殺せない。
いくら不毛だと解っていたって、この男を想うことを止められない。
馬鹿みたいだと、解っている。
たとえ、どれほどツァオロンが追いかけてみたって、無理に隣を歩こうとしてみたって、玄宗と己を隔てる距離が縮まるわけではない。
そしてツァオロンがどれほど玄宗に対して特殊な感情を抱いているか、なんてあの男が気付くはずも無いし、ましてや報われる可能性なんて考えることすら馬鹿馬鹿しい。
けれど。
くすり、とツァオロンは小さく、吐息だけで笑みを零した。







けれど、それでもどうしようもない。
俺は、この男の側にいると、もう己の立ち位置を決めてしまった。
いつか必ず来る別れまでに、少しでもこの男の中に俺という存在がほんの微かでも残ればいいと思い足掻き続けると、そう決めてしまったのだ。
(そう。だから)
だから俺は、まだこの世界に居たいんだ。







ツァオロンは声になるかならないかぐらいの小さなささやきを、微笑混じりに落とした。







なぁ、玄宗。







笑いたいなら笑え。
罵りたければ存分にするがいい。
何を言われようが、この生き方以外の選択を、俺はとうに捨ててしまっているのだ。














最初は一人で物思いにふけるちょっぴしセンチメンタルツァオロンを書きたかったはずでした。
何がどう間違ってまた螺子の吹っ飛んだツァオロン→(ベタ惚れ)→玄宗の話になったのか(笑)
まともなライトターコイズ…かける時がきたら、書きます…(苦笑)