例えば、君の声が僕を起こして、日常を告げること。
虚ろな瞳で、声で、人間としてはあまりにも不足した僕を呆れて、それでも決して見捨ててはくれない慈愛の瞳。
例えば、僕からの愛情の返還など求めない、献身的な愛情。
君は毎日、僕の鞄に荷物を増やしていく。
例えば、底に仕舞い忘れていた、子供時分に愛用した鉛筆だとか。
忘れていられる程軽いけれども、思い出してしまうとひとたび大切なものになってしまうものたちを、増やしていく。
僕は毎日はそれに気付けない。
いつの間にか増えたことにも気付かないで、やけに音をたてている中身に吃驚して、開けて、その重みに喜ぶ前にうんざりする。
―――嗚呼、いつの間に、と。
所詮、僕には過ぎた荷物なのだ。
元々、何も持っていなかったどころか、不足だらけの僕だ。
この荷は、僕の鞄に本来入らない、大層なものなのだ。
なのに、愚鈍な僕はいつの間にか抱えてしまったことにも気付かないで、戻せなくなる程重くなってしまってから気付くのだ。
捨てたい。
捨ててしまって、放り出してしまいたい。
だけど、できない。
ひどくひどく大切な荷物になってしまったから。
そして君は、僕の絶望など知らぬまま、変わらず毎朝僕を起こす。
慈愛の声で、僕の名を呼ぶ。
僕の荷物を、どんどん増やして重くしてゆく。
大切過ぎて、捨てられないまま、僕は苦しみ、喘ぐ。
そして確かに幸福に似た荷物を必死に抱え、共に絶望しながら鞄に詰めるのだ。
「私の幸せ」はこの短文の雪絵さんver.みたいな感じです。
関口さんは或意味とてもエゴイストで、そして誰のことも考えられていない。
それでも雪絵さんのことは愛したいと思ってくれるといいなぁ。
そしてこれは言わずもがな邪魅の関口をインスパイアさせていただきました。
あれは、じんわりと心に来ました・・・いつもの関口の自分に対する語り口とかなり違いましたよね。