寒色をした空の向こうに浮かんでくる太陽を見るのが、いつのまにかオイラとエージの日課になっている。
最初は短いと思って始めたトラック暮らも、早いもんでもう一週間もたった。意外とイモントウ?ってのは遠いもんなんだなぁ。
トラックの上だとやっぱり風が強くて冷たくて、思わず全身に鳥肌が立ってオイラは身をすくませた。
トラックの上になんて生きたときは乗ったこと無かったけど、生憎、今は身体なんてオイラもエージも持っていないから、関係ない。
上に乗る、という意識があればいいんだ。様は。
あまりにも空や風の雰囲気が寒いので、自然と身体が震える。いっつも本当はなにも感じないくせに勝手に生きているときを思い出して寒がっちゃうんだよな、とか思いながら。
朝日が少しずつ光を放っていく。
空がグラデーションを作っている。
明るく白んでいく空を見ていたら、ふと、今までずっと自分の中で凝り固まっていたものが、溶け出した気がした。
ああ、なんだっけ。何でこんな気持ちになるんだっけ。
そうだ、ずっと、考えていたんだ。…やっと、解りかけてきたんだ、オイラ。
白い吐息を吐き出して、隣にいるエージに声をかける。
(その吐息すらもオイラの感情が作り出したのだろうか、と思うと少しだけやるせなくなった。)
「なぁ、エージ」
「…なんだよ」
おっ、以外。
横で寝転んでるから、寝てるもんだと思ってたのに。
「…なんでもない」
おかげで言う気が失せたや。何だかなぁ。
オイラの白けた視線を感じ取ったのか、起き上がって問い返してくる。
「…なんだよ。言いたいことあるなら言えよな」
…コイツ変わったよな、絶対。今までならエージが怒り出して、俺もついつい口が出ちゃってケンカになったりしてたけど。
まぁ、変わったって言われればオイラもそうかもしれない。(なんてったって自覚はあるんだ)
「…あのさ」
「おう」
「……」
畜生。真面目に聞かれると話しにくい…。
オイラは目線を逸らして、目の前の山の合間から昇ってきた太陽を見上げる。
毎朝この一週間で見慣れた光景のはずなのに、やけに眩しく見えて俺は目を細めた。
思わずおぉ、と声を上げる。エージもおんなじことを思ったのかすげえな、って楽しそうに言った。
奇麗だ。(そう思って切なくなった。あぁ、どうして?)
「俺さ、解らなかったんだ」
零した声は思わず弱々しく響いたので、オイラは自分の声なのに驚いた。
(あぁ、俺は今、悲しいのか)
(何も解らなかった自分が、悲しくて悲しくて仕方ないんだ。)
「どうして、オイラがまだこの世にいるのか全然わかんなかった」
どうして死んでまで、オイラはまだこの世界にいるのか。アニキと一緒にこの世界に、いるのか。
「ツキタケ」
エージが、躊躇したようにオイラを呼ぶ。オイラは無視して続けた。
「でも、わかったよ。ずっと考えていたけど、わかった。…わかったんだ」
はぁ、と溜息みたいに零したはずなのに、それよりも、ずっとずっと満たされていた。
(あぁ、悲しい。悲しくて堪らないのに―――でも、今とてもオイラは幸せなんだ)
「なぁ、エージ」
「何だよ」
「早く、うたかた荘に帰りたいな」
朝日が空に浮かぶ。あの眩しさが、暖かさが、いつの間にか居場所になっていたあの場所ととても似ていた。
「……あぁ、そーだなぁ」
朝日が眩しくて思わず目をつむる。
それでも頑張って細目でかすかに見た世界は吃驚するぐらい奇麗で、俺はとうとうなんにも言えずに黙ってエージと同じく寝転んだ。
オイラは、きっと。うたかた荘で活きるためにもう一度生まれたって、そう、今なら解るんだ。
ツキタケとエージのお話。
最終回を見て、ツキタケとエージはよくトラックの上に乗っているといいなぁと思って書きました。
エージとツキタケはもはや親友になっているあの関係が萌えます。